歯の治療に2年も待てない。


日本で歯の治療をするとき、だいたいの場合は健康保険ですぐに治療ができます。歯の健康はその人の健康の一部ですから、歯科医師の迅速な対応は当然です。

しかしオーストラリアでは、日本の健康保険にあたる「メディケア(Medicare)」に国民の義務として加入していても、歯の予防治療や虫歯治療などをすぐに行うことができません。

現在、約50万人以上のオーストラリア人がメディケアを使って歯を治療するために待っている状況だそうです。その期間は平均2年。

もし歯に問題があり保険を使ってすぐに治したいのならば、国民は「プライベート保険(private insurance)」に加入する必要に迫られることになります。プライベート保険には様々な会社が参入しており、日本の保険業界のように凌ぎを削っています。

オーストラリアでは、歯の治療に限らずプライベート保険加入者が優遇、すなわちすぐに医者にかかることができ、メディケアだけの人は後回しにされる、という暗黙の了解事項があります。


メディケアですぐに治療できないからか、オーストラリア人の中には歯の予防にあまり力を注がない(注げない)人も多く、特にプライベート保険に加入したくても実際問題加入できない低所得者層の人たちは過酷な状況にさらされています。

清掃員のフェイセルさんは虫歯がひどく、55歳で全ての歯を抜かなければならなくなりました。500万円で全部の歯を差し歯にする方法もありましたが、金銭的に彼女にそれは無理でした。

結果として、フェイセルさんは毎日食べ物を細かく刻んでミキサーにかけて栄養をとっています。

国は現在、メディケアの保険料を1パーセント上げて得られる保険料収入の4分の3を使って「デンティケア(Denticare)」の導入を考えています。

しかし、オーストラリア歯科協会の代表者は「デンティケアは国民全員から保険料をとるというが、メディケアだけで医者にかかる人たちのような、本当に資金援助が必要な人たちのことを考えているシステムとは思えない。」と強い調子で反論しています。